『安野光雅の絵本作りの原点を探る-書誌学的な観点から、絵本成立に至るまでの着想のルーツを探る-』を開催しました!

  • 一般向けイベント
  • 掲載日2022年8月26日

西東京市図書館講演会『安野光雅の絵本作りの原点を探る-書誌学的な観点から、絵本成立に至るまでの着想のルーツを探る-』

 西東京市在住の装丁家である大貫伸樹さんを講師にお招きして、今年1月コロナ禍のために延期となっていた講演会を実施しました。
 当日は、大貫氏所蔵の貴重な資料をご覧いただきながら、安野光雅がなぜ絵本をつくるようになったのか、絵本をつくることで目指したものはなんだったのか、参加者の皆さまがそれぞれ思索巡らすひとときになったのではないでしょうか。

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今回の講演では、感染対策として、質疑応答の際に参加者の皆さまにマイクをまわすのではなく、講演終了後の休憩時間に質問票を記入して提出していただく形を採りました。
講演中にお答えいただいた分も含め、いただいた質問と回答を紹介いたします。

質問 回答
『ふしぎなえ』について
モチーフがヨーロッパ的ですが、安野さんはその着想をどこから得たのでしょうか。
小学校の美術の先生をしていた経験も関係しているのでしょうか。
『ふしぎなえ』をつくるきっかけとなったのはエッシャーだったと思います。
ご指摘のとおり、安野さんは小学校の美術の先生の経験や、玉川出版の編集でイラストレーションや装丁の仕事をした経験がおありでした。切り絵もすでに制作していた。つまり、『ふしぎなえ』の出版前から、絵本作家になる準備作業をすでにしていたと思います。
また、仕事をやめたあと、ヨーロッパ旅行に出ています。まずオランダに向かったのは、アンデルセンに会いに行ったのでしょう。
そこでエッシャーと衝撃的な出会いをするわけです。
お話の中に出てきた「松居さん」はどこの出版社の方ですか? 福音館(書店)の社長さんでした。
『ふしぎなえ』について
なぜ絵本というかたちで出版されたのでしょうか。
出版社(先出の松居さん)の意図だったのではないでしょうか。
安野さんはエッシャーのように画集にしたかったのかもしれませんが、画集や写真集は売れないです。本にするためには、ストーリーやキャラクターが必要だ、と出版社から言われたのだと思います。
今は人気の作家さんがいて絵本も売れる時代ですが、当時は絵本は売れる時代ではなかったと思います。
安野さんは、なぜこんなにたくさんの本をつくることができたのでしょうか。 私も不思議に思います。
『ABCの本』では、「A」「B」「C」の文字を描くだけでも2年、そのあと絵を描くのに3年、合計で5年かかっているんですからね。
私にもわかりません、とても不思議ですね。
安野さんは、こどもとおとな、どちらを対象にして絵本をつくっていたのでしょうか。 私も推測ではありますが、大人向けだったのだと思います。
こどもの本、という意識はなかったのではないか、また、もしかしたら対象を設けていなかったのではないかと思います。
(安野さんの切り絵の話から)大貫先生は切り絵に挑戦されたりはしないのですか? 今から切り絵に挑戦するのは、ちょっと難しいですね。
私はオブジェや立体が得意なんです。水彩画のモチーフなどは、自分でオブジェを作ってしまいます。
それを撮影して水彩画を描いています。
私は安野さんの水彩画がとても好きです。
安野さんが切り絵や緻密な絵と水彩画、対極の表現を愛したのはなぜなのでしょうか。
切り絵は緻密な表現です。一方で水彩画はにじみなどが生じるので、計算できないところがあります。
切り絵はどこかがつながっていなければならないので「不自由」、水彩画は「自由」と言えると思いますが、どちらも「予想外が生まれる」という意味では共通しているのではないかと思います。「不確実性」が楽しいと言えるのではないでしょうか。
切り絵は作っていると、紙がつながらないところがどうしても出てきます。それがうまくいったときの快感はクリエイターにとっては嬉しいものだと思います。
寄席の紙切りでは、切り抜いた紙と残った紙をそれぞれ黒い台紙に載せて、白黒反転の絵を見ることができます。
安野さんの切り絵も白黒反転すると文字が読みやすくなるような気がしますが、いかがでしょうか。
また、赤い帽子の小人ですが、安野さんの『ふしぎなえ』は1968年、ピクシーらの妖精図鑑などは2000年以降のようですので、安野さんがピクシーらを模倣したとは思えません。
切り絵文字には標準化された新聞活字のような読みやすさがなく、でも味があるので、絵本など使用目的に合えばすばらしく見えるものと思います。

安野さんが見た可能性があるのは『くつやとこびと』『しらゆきひめ』『ピノキオ』などに登場する小人で、それらの元となったのは、ノームとかピクシーではないかという話だったと思います。妖精図鑑はピクシーの例として挙げました。

講演会情報

講師 大貫 伸樹さん (西東京市在住 装丁家)

開催日時 令和4年8月7日(日曜日) 
     午後2時から4時まで
 

会場   柳沢公民館 視聴覚室

ポスター画像(PDF:9MB)